ライフストーリーワークとは? ~所沢里親会の取り組みについて~
「ライフストーリーワーク」という言葉をご存じですか?ネットや様々な場所での研修等で耳にしたことがあるかも知れません。今回の特集は、その「ライフストーリーワーク」を積極的に活用し、ブックの作成も手掛けた所沢里親会の取り組みをご紹介します。
~「ライフストーリーワーク」とは?~
①ライフストーリーワークは、真実告知ではありません。
過去を知らせるのが目的ではなく、子どもが、これまでの自分を確認し、未来へつなげていくのが目的です。
②里親子(養親子)でおこなうライフストーリーワークは、子どものストーリーだけでなく、ファミリーライフストーリーです。
親子のストーリーを綴ります。
わたしのライフストーリーブック ~見本ブック~
(発行 所沢里親会より抜粋)
市販品にない独自の特徴と約束
・ ファミリーライフストーリーのページがある
・ 里親の解釈は入れない
・ 里親の勝手なストーリーは作らない
・ 事実だけを書く
・ わからないことは書かない
1950年代にアメリカで里親委託や養子縁組の準備として、ソーシャルワーカーが子どもの歴史を記した本を作成したのがその始まりであるとされています。
ライフストーリーワークは、子ども自身が自分の人生を肯定的に受け止められるようにすることを目的としており、イギリスでは専任のライフストーリーを行う職員(ライフストーリーワーカー)が行うことがあります。
ライフストーリーワークは養育に効果的な援助方法ですが、実施時期や子どもの状態・状況の検討、またライフストーリーワークを行う上での事前の情報収集などが重要であり、慎重に行う必要があります。(里親・ファミリーホーム養育指針ハンドブックより抜粋)
書き方例満載の見本ブック(グレー)と本誌
緊急事態宣言も解除された秋晴れの10月6日埼玉県里親会事務所にて所沢里親会が発行した「わたしのライフストーリーブック」発起人の吉沢佳余子里母(左手前)にお話しを伺いました。(以下、ライフストーリーワーク=LSWと記載させていただきます。)
吉沢さんが「LSW」に取り組んだきっかけは?
一番は真実告知への疑問からでした。生い立ちのことを知るのは親が主体ではなく子どもが主体であるべきだと思います。
そしてもうひとつ、「真実を告知」ってとても大袈裟な言い方だと思いませんか?事実がいっぱいあるなかでどれが自分にとっての真実なのかを判断するのは、自分自身で判断していくべきで、これが真実なのよ、と伝えるのは里親のおごりではないのか?との想いもありました。そして、真実を告知するのに、大切な話を日常的に普通に繰り返し話していくやり方がいいのではないかと思いました。また、小さいころからの真実告知を児相から提案されますが、小学生の夏休みの宿題のようないつかはやらなければならないけれども、気がかりで頭にのしかかってしまう・・・ではどうしたらいいかと思っていた時に、日常型のLSWがあることを知りました。
また、以前学校への説明用ツールとして「ひまわりのチラシ」を所沢で作成しましたが、これは子どもの前にある石を事前に除いておいてあげるものです。ただ、いつかは自分の手でその石を退けるように退け方を教えるのがLSWだと思っています。ひまわりのちらしは「外への配慮」、LSWは「内(親子の間)での配慮」といえるかなと思っています。
所沢里親会で作成したチラシをもとに埼玉県里親会で作成した「ひまわり」のチラシ
「わたしのライフストーリーブック」の作成までの道のりは?
LSWを研究されている、日本財団研究員(当時)の徳永祥子先生を知り、2017年から何度も研修を行いました。LSW作成にあたっては様々な里親子の形がある私達用に市販品にはないカスタマイズできる独自のブックが必要では?と研修を受けたメンバーでチームを発足し検討を始めました。最初はシール式というアイディアから始まったものの運用が難しく、書き込み式になりました。書き込み式も共通部分(生みの親がいること等)は印刷、カスタマイズ部分は自由書き込みとし、最終的には切り取りシート式の里親と子どもが一緒に行うライフストーリーワークブックが完成しましたが、自分たちだけでやってみるのは難しく、親が読む説明書として、「見本ブック」も作りました。
最初の研修を受講してから約2年4か月後の、2020年3月に「わたしのライフストーリーブック」が完成しました。
LSWを行う上での注意点は?
結果ではなくその過程を子どもと一緒に行うことが大切です。順不同で良いのでやりやすいところから始めてください。日常生活の会話の中から「自分のことを知りたい」というニーズをキャッチして、ブックの中で伝える。里親になった理由やあなたを初めて見たときの印象を書く等子どものライフストーリーであるとともに、そのファミリーのライフストーリーになるようになっています。また、子どもが中学生くらいになって、自分で書き込んでいってもらえたらと思い作ったページもあります。
「 わたしのライフストーリーブック」の使い方は? ~このブックへの想いや声~
日常の生活の中で子どもから自分に関する話題が出たら、そのページを作成するという、里親子の共通作業、認識になっていくといいのかなと思っています。基本は、子どもが書き込みますが、子どもが小さい場合は代わりに書いても良く、書き込んだシートをファイルに差し込んでいくようなかたちでまとめたり、必要な部分を切り取って紙に貼り付けていったりしても良いです。
始めるタイミングとしては幼稚園から小学校低学年ごろからがよいのではと思います。子どもも慣れてくると自分で「やるやる♪」と楽しんでやるようになるという声も聞いています。里親の気持ちを書き込むページに子どもへの気持ちを言葉だけではなく文字として書き残していることで、子どもが成長しこのブックを手に振り返ってみる時、愛されたんだなと伝わると思っています。
もっと!深堀り探検隊!
LSWに取り組んでいらっしゃるご家庭に、取り組みについてアンケートにご協力いただきました。誌面の都合上抜粋してご紹介します。
取り組みは誕生日などイベント時に昔の話が出たことをきっかけに短時間で行う方が多く、欲張って一度にたくさんの内容に取り組んだりすると子どもが飽きてしまいノートをぐちゃぐちゃにされてしまうという話も寄せられました。委託から年数が経っていたため当時のことが思い出せないなど困っている方もいらっしゃいました。また、嘘は書かない、親の考えを押し付けない、書きたいところから書く、と研修で学んだことを見事に実践していることもうかがえました。
取り組む前と後の気持ちや行動に変化は?(里)親
・生い立ちに関する突然の質問にも冷静に返答が出来、会う前の事も一緒に振り返ることで、思い出を共有出来て嬉しい。信頼が深まった気がする。
・実親や現在の家族への思いを今まで以上に聞くことができ、「家族なんだ」という安心感が増した。
・文字や形に残すことで思い出も増え、見返したときに新鮮な気持ちになる。子育ての時間を大事にしたいなと思った。
・交流中や委託当時の子どもが覚えていないエピソードを親の気持ちとして書き残してあげたいと思うようになった。
取り組みでのエピソードや感想は?
・生い立ちの話が子どもにとってマイナスになる部分があるかもと心配したが、嬉しそうにしていたり、真剣に聞いてくれてとても良い時間になった。
・一緒に作業したりすることで沢山会話をして、楽しい時間を共有することができた。
・出生について伝えられる情報が少ないと改めて実感。
・ブックを作ることで委託当初の子どもの気持ちを初めて知ることができた。LSWに取り組んで良かったと思える瞬間だった。
・改めて文字に記すことで子どもも親も少し自分を見つめ直したように思う。家族だという気持ちが確かになった。
取り組む前と後の気持ちや行動に変化は?(子ども)
・実親のことや実兄弟のことを知りたがるようになった。(気軽に話すようになった)
・聞いてもいいんだなあという気持ちになったと思う。自分を受け入れ落ち着きも出た。
これから始めてみたいという方へのアドバイス
・子どものアルバムを一緒に作っていく感覚で取り組めて楽しいと思う。
・子どもが前進できるように応援している私達がいるということを伝えることができると思う。
中学卒業位まで、
20歳まで、
自立するまで、
書くことがあるまでは
続けていきたい!!
作成までの長い年月と道のり、そしてファミリーライフストーリーという言葉がとても心に響きました。
様々な家族のかたちがある私たちと子どもたち。その子どもたちがブックを読み返したり、追記したりすることで、「これまでの自分を確認し、未来へ繋げていけるように」との想いがあります。この特集をお読みいただいた皆様に、その想いが少しでも届いたら嬉しく思います。
ご協力いただきました皆様へ厚くお礼申し上げます。
「子どもとともにそれぞれの場面を振り返り、確認しながら、子どもが未来へ向かっていくためのファミリーライフストーリーを作っていく。」
上記アンケート結果からも、現在ブックに取り組んでいる皆さんの想いがとても伝わってきました。実際に取り組もうとしているものの、まだ子どものタイミングにあわなかったり、途中で飽きたりとなかなか進まないケースもアンケートの中にはありました。吉沢さんは、出来るところから、話が出た時、やりたいタイミングがあったときにやればよい。そして大切なのは『親子で一緒に書くことの良さ』であると仰っていました。インタビューにご協力いただきました所沢里親会の吉沢里母、ブックを作成したLSW・チームの皆様、アンケートに回答いただきましたご家庭の皆様、ご協力誠にありがとうございました。